京都 塔頭をめぐる旅 東福寺編

京都旅で「塔頭(たっちゅう)」というフレーズを耳にしたことはありませんか。お寺の本山の周辺にたたずむ子院のことで、東福寺をはじめ妙心寺、天龍寺などガイドブックでもよく掲載される有名寺院には多くの塔頭があります。訪ねてみれば、ゆっくり過ごせたり、素敵なお庭に出会えたり、意外な体験ができるなど、新たな発見がいっぱいです。塔頭めぐりで、奥深い知られざる京都に触れてみましょう。


塔頭めぐりの魅力

「塔頭」とは?

塔頭とは、本山の住職亡き後、弟子たちが塔(墓)や庵を建て、大切に守り継いだ子院を意味します。1200年の歴史を誇る京都は各宗派の本山が集まることから、塔頭がたくさん。禅の教えを支持した武士や貴族からのバックアップが篤く、特に、禅宗寺院に多く建立されたといいます。なかでも“日本最大級の禅寺”と呼ばれる臨済宗妙心寺派の大本山 妙心寺には、46もの塔頭が。すべては公開されておらず、季節限定公開や拝観謝絶のお寺もあるので、お参りの際はご注意ください。


名所のエアポケット

紅葉・桜シーズンともなれば本山は混雑必至ですが、塔頭は本山より空いていて、ゆっくり拝観できることも。各塔頭はそれぞれ近くに位置するため、渋滞を気にすることなく、徒歩でスムーズに移動できます。エリアを集中してじっくりめぐってみませんか。

お寺の“秘蔵”鑑賞

春・秋に特別拝観を行う塔頭が多く、庭園や襖絵を期間限定でご覧いただけます。まさに“秘蔵”に出会えるチャンス。毎年冬・夏に京都市観光協会が企画する「京の冬(夏)の旅」非公開文化財特別公開で公開されることもあるので、イベントのチェックはお忘れなく。

様々な体験ができる

一般公開されていなくても、事前に申し込めば、堂内で様々な体験ができる塔頭もあります。坐禅や写経、写仏などお寺ならではのプログラムが中心ですが、ヨガや精進料理教室という意外なものも。通常非公開の空間で、特別なひとときをどうぞ。


京都屈指のもみじの名所 東福寺

  • 紅葉に浮かぶ通天橋

  • 通天橋からの眺めは圧巻!

  • 晩秋には“紅葉の絨毯”が楽しめます

  • 本坊庭園 南庭

  • 本坊庭園 北庭

  • 三門(国宝)

  • 東福寺全景

  • 新緑シーズンの通天橋

  • 初夏の風景もまた美しい

  • みどりに包まれ、清々しい境内です

東福寺は、鎌倉時代にはじまる臨済宗東福寺派の大本山。奈良の東大寺と興福寺になぞらえ、京都最大規模の伽藍を目指し19年もの歳月をかけて建立されました。寺名はそれぞれから1文字を取ったものです。創建当時の建物は遺りませんが、往時を偲ぶ壮大な七堂伽藍が迎えてくれます。建物とともに驚くのが、もみじの美しさ。境内には約2000本の木々が植えられ、橋から眺める真紅の絶景は、あまりにも有名な京都の秋景色です。

古くは広大な寺域を誇り70以上の塔頭があったと伝わりますが、廃仏毀釈等によって現在は25ヵ寺に。そのほとんどは非公開となり、お寺によって季節限定の特別公開で拝観できます。特に多くのお寺が特別公開を行う「秋」が、東福寺・塔頭めぐりのベストタイミングといえるでしょう。京都駅からのアクセスが良く、日帰りでめぐりやすいのも魅力です。


大仏の遺構が塔頭に!

実は、かつて大仏が祀られていたという東福寺。創建時に造られたもので、約15メートルという東大寺の大仏ほどの大きさでした。明治14年(1881)に火災に遭いますが、左手と台座の蓮の花弁(蓮弁)は焼失を免れ、蓮弁は大仏の貴重な遺品として各塔頭に配されたそうです。現在、公開されている塔頭もあるので、お参りしたらチェックしてみましょう。


塔頭でアートな庭めぐり

東福寺では、本坊庭園(国指定名勝)も見どころ。方丈の東西南北にお庭があり、特に、四角の板石と苔を配したモダンな市松模様の北庭が印象的です。手掛けたのは、昭和の名作庭家 重森三玲。作庭家デビューを飾ったのがこちらでした。その後、塔頭からも依頼を受け、様々な庭に携わることになります。各寺院で異なる、アートな庭をゆっくり鑑賞しませんか。

【光明院】~苔と白砂が調和する、四季折々に美しい虹の苔寺~

創建は室町時代初期。苔と白砂が調和する「波心庭」は、重森三玲が東福寺の本坊庭園と同時期(昭和14年)に手がけたものです。苔の絨毯のなか、仏像に見立てた三尊石組を基点に多くの立石が斜線状に並ぶ様子は、寺名の「光明」を表しています。方丈から書院にかけて広がり、どこから見てもダイナミック。吉野窓越しに眺めると、また違った印象に。秋は紅葉、初夏はサツキやツツジが彩りを添え、「虹の苔寺」の異名をもちます。近年、様々な企画展が行われ、庭と一緒にアートが楽しめるのも見どころです。


【芬陀院(ふんだいん)】~雪舟が手がけ、重森三玲が復元した「鶴亀の庭」~

定山祖禅(じょうざんそぜん)を開山に創建された一條家の菩提寺。画僧 雪舟が手がけた京都唯一の庭と伝わる「鶴亀の庭」があることから「雪舟寺」と親しまれています。現在の庭は重森三玲が復元したもの。新たに東庭を作庭し、もうひとつの「鶴亀の庭」が完成しました。鶴亀を模した石や苔、常緑樹で構成され、季節で変わることのない“不変の美”を感じさせてくれます。書院のお気に入りの場所に座し、鑑賞してみましょう。障子に施されたモミジのアートポイントもお見逃しなく。


【霊雲院】~細川家ゆかりの「遺愛石」に広がる大砂紋~

東福寺や天龍寺、南禅寺の住職を務めた高僧 岐陽方秀(ぎようほうしゅう)が、明徳元年(1390)に創建。江戸時代のガイドブック『都林泉名勝図会』に紹介されたほどの名高い庭を有しますが、次第に荒廃。昭和45年(1970)、住職が庭園の復元を熱望したことから、重森三玲によって復元されました。「九山八海の庭」は、熊本藩主 細川忠利から贈られた「遺愛石」を須弥山に見立て、広がる砂紋で山海を表現。新たに作庭した「臥雲の庭」は、鞍馬石と白砂で雲を描き、モダンな印象です。通りから奥まった場所に位置するため、堂内は静寂に包まれています。
※土日を中心に、不定期公開。公開日は事前に公式ホームページでご確認ください。


四季折々の花手水が華やか!

勝林寺

庭めぐりとあわせて訪ねるなら、東福寺の鬼門を守護する勝林寺がおすすめ。手水舎を鮮やかな花々で彩る“花手水”は、一年を通して楽しめます。毎週火曜日と土曜日(※)には、驚くことに住職自らがお花の入れ替えをされています。訪れるたびに異なる花手水に出会えるのは嬉しいですね。季節限定のアートな御朱印が豊富に用意され、事前申込み制の坐禅や写仏体験も人気。秋と新春には、秘仏の御本尊 毘沙門天立像の特別公開が案内付きで行われます。
※お花の入れ替え日は変動することもあります。事前に公式Xでご確認ください。


さらに楽しくなる! 季節限定の特別拝観

東福寺の塔頭の多くは非公開。秋を中心に季節限定で特別拝観を行う、主なお寺をご紹介します。庭園や仏像など、気になるスポットへお出かけください。
※特別拝観の詳細は公式ホームページでご確認ください。

【龍吟庵】~国宝・方丈から楽しむ枯山水~

東福寺三代住職 大明国師の住居跡で、本坊の奥、偃月橋(えんげつきょう)を渡った先に位置します。春・秋の特別拝観では、日本最古と伝わる方丈から重森三玲作庭の3つの枯山水を鑑賞。寺名に由来する「龍の庭」は海中から黒雲をまきおこし昇天する龍を表現し、竹垣には雷をデザイン。空間全体で楽しめるのが魅力の庭です。

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【一華院】~“朱雀の庭”で抹茶を一服~

永徳2年(1382)に東漸(とうざん)禅師が創建。秋の特別拝観では、松で朱雀を表現した「依稀松(いきまつ)の庭」など四神をモチーフにした庭園をご覧いただけます。「虎靠山(ここうざん)の庭」と「彷彿石庭」は、重森三玲の孫 千靑氏が手掛けた新しい庭。書院でお茶席を楽しみながら、ゆったりとしたひとときをどうぞ。

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【天得院】~桔梗と紅葉が彩る禅の庭~

無夢一清(むむいっせい)禅師によって開かれた、格式の高い東福寺五塔頭のひとつ。特別拝観は、桔梗と紅葉シーズンのみ。本堂前には桃山時代作庭と伝わる枯山水庭園が広がります。清楚な桔梗が咲く初夏、紅葉に彩られる秋、いずれも風情があり、抹茶をいただきながら庭園鑑賞はいかがでしょう。秋は紅葉ライトアップも開催。

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【即宗院】~紅葉と苔のコントラストは必見~

嘉慶元年(1387)に創建された薩摩藩島津家の菩提寺で、西郷隆盛ゆかりの寺としても有名。室町時代後期に造られた庭園は、江戸時代のガイドブック『都林泉名勝図会』にも掲載された名庭です。昭和に復元後、京都市の名勝に指定されました。紅葉と苔のコントラストが美しく、春・秋に特別拝観が行われます。龍吟庵に隣接しているため、あわせて訪ねるのがおすすめです。

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【同聚院】~秘仏 不動明王坐像を御開帳~

創建は文安元年(1444)。御本尊 不動明王坐像は、かつてこの辺りにあった法性寺 五大堂に祀られていたもの。藤原道長が仏師 康尚に作らせた2メートルを超える圧巻の仏像です。祇園の芸妓 モルガンお雪が信仰したことから「働く女性の守り本尊」として親しまれ、秋の御開帳でご覧いただけます。境内は通年公開され、御朱印やお守りも拝受可能。

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【栗棘庵(りっきょくあん)】~紅葉を愛でながらランチタイム~

紅葉を愛でながら、お寺で昼食はいかがですか。栗棘庵は通常非公開ですが、例年10月最終土曜日から12月初旬の期間限定で、京料理「髙澤」の仕出し弁当をご用意。紅葉に彩られた庭園とお食事を楽しめる、贅沢なひとときを過ごせます。髙澤へ事前に電話予約しておくとスムーズです。詳細は髙澤の公式ホームページをご確認ください。

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【秋のPICK UP】

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「そう京」編集部がご提案!

東福寺 秋のモデルコース

東福寺の塔頭めぐりは、秋に訪れてこそ魅力を実感できます。まずは早朝7時開門の光明院で、静寂を感じながら庭園鑑賞。続いてお待ちかねの東福寺 通天橋・開山堂へ。開門直後なら比較的落ち着いて紅葉が楽しめます。ランチは栗棘庵で紅葉を愛でながら京料理「髙澤」の仕出し弁当に舌鼓。勝林寺の秋の特別拝観では、秘仏 毘沙門天立像にパワーを授かりましょう。1日かけてじっくり過ごせる東福寺界隈。時間に余裕があれば、「秋の特別拝観」の表看板を目印に気になる塔頭を訪ねてみましょう。


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【秋のpickup】

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東福寺の塔頭めぐりは、秋に訪れてこそ魅力を実感できます。まずは早朝7時開門の光明院で、静寂を感じながら庭園鑑賞。続いてお待ちかねの東福寺 通天橋・開山堂へ。開門直後なら比較的落ち着いて紅葉が楽しめます。ランチは栗棘庵で紅葉を愛でながら京料理「髙澤」の仕出し弁当に舌鼓。勝林寺の秋の特別拝観では、秘仏 毘沙門天立像にパワーを授かりましょう。1日かけてじっくり過ごせる東福寺界隈。時間に余裕があれば、「秋の特別拝観」の表看板を目印に気になる塔頭を訪ねてみましょう。



塔頭めぐりは、京都各地で

東福寺を楽しんだら、京都各地の塔頭をめぐってみませんか。大人気の「嵯峨野・嵐山エリア」など、様々なエリアをピックアップしました。それぞれで歴史や見どころが異なり、新たな発見があるでしょう。

花園エリア

【妙心寺】

臨済宗妙心寺派の大本山。境内は東西約550メートル、南北約600メートルを誇り、46もの塔頭を有します。築地塀の小径が四方に続き、まるで“お寺の町”のようです。通年公開されているのは四季折々の庭園が美しい退蔵院・桂春院・大心院のみ。多くは非公開となり、季節の特別拝観やお寺独自の体験プランに注目するのが妙心寺の塔頭めぐりのポイントです。東林院では住職が教える「精進料理教室」という珍しい体験も。

嵯峨野・嵐山エリア

【天龍寺】

臨済宗天龍寺派の大本山。「嵯峨野・嵐山」エリアに位置し、雄大な「曹源池庭園」で知られる世界遺産寺院です。9つの塔頭の多くは非公開となり、めぐるなら、宝厳院と弘源寺が特別公開される春秋がおすすめ。どちらも美しい庭園と襖絵が待ち受けています。ランチは、妙智院内にある「西山艸堂」で湯豆腐をいただきましょう。毎年節分の日には塔頭をめぐる「節分会(七福神めぐり)」が行われ、非公開寺院も参拝できます。

三十三間堂・東福寺エリア

【泉涌寺】

真言宗泉涌寺派の総本山。月輪山麓に位置し、皇室とゆかりが深いことから「御寺(みてら)」とも呼ばれています。総門から大門へ続く泉涌寺道周辺には、8つの塔頭が点在。約10メートルの御本尊 釈迦如来立像を祀る戒光寺や“仏様のオーケストラ”で知られる即成院、写仏体験ができる法音院などがあります。毎年1月成人の日には塔頭の七福神に詣でる「泉山七福神めぐり」を開催。福を求める多くの参拝者で賑わいます。


京都 塔頭をめぐる旅 東福寺編マップ


※写真・イラストはイメージです。
※掲載内容は2025年9月11日時点の情報です。企画・イベントの開催時期や内容は予告なく変更となる可能性がございます。